探偵業の業務適正化に関する法律(解釈運用基準)
探偵業の業務の適正化に関する法律(平成18年法律第60号。以下「法」という。)、探偵業の業務の適正化に関する法律に規定する道公安委員会の権限の方面公安委員会への委任に関する政令(平成18年政令第367号。以下「令」という。)及び探偵業の業務の適正化に関する法律施行規則(平成19年内閣府令第19号。以下「府令」という。)の解釈運用の基準は、次のとおりとする。
第1 目的(法第1条関係)
探偵業は、個人情報に密接にかかわる業務であるが、何らの法的規制もなされず、調査の対象者の秘密を利用した恐喝事件、違法な手段による調査、料金トラブル等の問題が指摘されてきた。このような状況にかんがみ、法は、探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的として制定された。
このような法の目的にかんがみ、探偵業者に対する指導、監督等を通じ、調査の依頼者及び対象者の権利利益の保護を十分に図る必要がある。
第2 定義(法第2条関係)
1 「探偵業務」の定義(第1項関係)
(1) 「他人の依頼を受けて」とは、契約に基づき、他人のために行うことをいい、「他人」とは、当該契約に基づく業務を行う者以外の個人及び法人等をいう。また、次のような業務は、調査を行う場合であっても、自己の本来の業務のために行うものであり、「他人の依頼を受けて」行うものではないことから、探偵業務に該当しない。
○ 作家、著述家、フリージャーナリスト、インターネット・メディア等が自らの報道、著作等の用に供する目的で行う取材活動等
○ 学者、研究者等が自らの学術調査活動の一環として行う調査等の活動
○ 弁護士、公認会計士、税理士又は弁理士が自ら受任した事務を行うため必要な活動
(2) 「特定人」の「人」には、個人のほか法人等が含まれる。また、「特定」の程度については、個人の場合、住所、氏名等が必ずしも明らかである必要はないが、調査の対象者の個性に着目し、これを具体的に絞り込むことができる程度であることを要する。次のような業務は、不特定多数の者から特定の類型を基に対象者を抽出するものであり、対象者の個性を前提としたものではなく、特定人に関する調査とはいえないことから、探偵業務に該当しない。
○ 研究調査機関等が行う世論調査、アンケート調査
(3) 「所在又は行動」には、現在のものだけでなく、過去又は未来の所在又は行動が含まれる。これらについての情報の中には、特定の時期における個々具体的な「所在又は行動」だけでなく、勤務先、所属団体等についての情報や素行等一般の情報が含まれる。
他方、次のような業務は、「特定人の所在又は行動」についての情報収集を目的とするものではないことから、探偵業務に該当しない。
○ 単に個人又は法人の資産状況や経営戦略(経営戦略に基づきとった行動は除く。)についての情報収集を行うことを目的とする業務
(4) 「面接による聞込み、尾行、張込み」は、実地(現場)の調査の方法の例示である。「その他これらに類する方法」は、現場に出向いて行われる調査(実地の調査)の手法であって、例示に挙げられた方法と同等程度に対象者の権利利益を侵害する可能性があるようなものをいい、例えば、秘匿性のあるカメラを設置し、その記録内容を解析する方法がこれに該当する。
次のような業務は、「実地の調査」を行うものではないことから、探偵業務に該当しない。
○ 単に電話による問い合わせやインターネットを用いた情報の検索のみにより調査を行うだけの業務。なお、実地の調査の対象となる者は、情報収集の目的とされる「特定人」に限られない。
(5) 探偵業務は、「調査の結果を当該依頼者に報告」する業務、すなわち、「依頼を受けて行う実地の調査」と「調査の結果の依頼者への報告」とが一体となって行われる業務である。したがって、次のような業務は探偵業務に該当しない。
○ 実地の調査により個人の所在又は行動についての情報を広く収集し、データベースを構築しておき、そのデータを依頼に応じて提供するような業務
2 「探偵業」の定義(第2項関係)
(1) 「営業」とは、営利の目的で同種の行為を反復継続して行うことをいう。
(2) 「探偵業」には、「専ら、報道機関の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるもの」は除外されるが、これは「報道の自由」を尊重する観点から、報道機関からの依頼を受けることを「専業」としているものを探偵業としての規制から除く趣旨であり、報道機関からの依頼のほか、報道機関以外の者からの依頼も受けている場合は、除外されない。
なお、「報道機関」には、「報道」を行う出版社が含まれ、また、個人の作家、著述家、フリージャーナリスト等が含まれる。また、「報道」とは、「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む」ものであるから、新聞の記事、ニュース番組のほか、事実に基づくものとして執筆されたコラム、エッセイ及び小説であっても、これに含まれる。
第3 欠格事由(法第3条関係)
1 第1号関係
(1) 「成年被後見人」とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるため、家庭裁判所により後見開始の審判を受けた者をいう(民法第8条)。
(2) 「被保佐人」とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分であるため、家庭裁判所により保佐開始の審判を受けた者をいう(民法第12条)。
(3) 「破産者」とは、債務者であって、裁判所により破産手続開始の決定がされているものをいい(破産法第2条第4項)、「破産者で復権を得ないもの」とは、破産者であって、免責許可の決定の確定、破産手続廃止の決定の確定等による復権を得ていないものをいう(破産法第255条第1項及び第256条第1項)。
2 第2号関係
(1) 「刑に処せられ」とは、刑の言渡しに係る裁判が確定することをいう。
(2) 法第3条第2号に該当する者は、次のとおりである。
① 刑の言渡しに係る裁判が確定したが刑の執行がなされていない者(執行猶予中の者を含む。)
② 刑の執行中である者
③ 刑の執行が終わったが終了の日から起算して5年を経過しない者
④ 刑の言渡しに係る裁判が確定した後に刑の執行を受けることがなくなったが、その日から起算して5年を経過しない者
(3) 「執行を終わり」とは、その刑の執行を受け終わったという意味であり、仮釈放された者は、仮釈放期間が終了したときに刑の執行を受け終わったことになる。
(4) 「執行を受けることがなくなった」とは、刑の時効が完成することや恩赦により刑の免除を受けることをいう。
(5) 執行猶予期間が満了した場合又は大赦若しくは特赦の場合には、刑の言渡し自体が効力を失うので、その時点で、「刑に処せられ」た者ではなくなり、法第3条第2号に該当しなくなる。
3 第3号関係
「処分に違反した」とは、違反した事実があることをいうが、違反事実について事件処理された場合であって、検察庁又は裁判所の処分結果が不起訴(起訴猶予を除く。)又は無罪であるときは、原則として、同号に該当しないものとして取り扱うこと。
4 第4号関係
「暴力団員」とは、暴力団(その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。)の構成員をいう。
5 第5号関係
「営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者」とは、親権者又は未成年後見人から営業を許可された者(民法第6条第1項)及び婚姻により成年に達したものとみなされる者(民法第753条)以外の未成年者をいう。
6 第6号関係
「役員」とは、法人において、その業務の執行、業務の監査等の権限を有する者をいい、株式会社の取締役及び監査役、委員会設置会社(会社法第2条第12号)の執行役、持分会社の業務を執行する社員、社団法人及び財団法人(民法第34条)の理事及び監事等をいう。
第4 探偵業の届出(法第4条関係)
1 第1項関係
(1) 「営業所」とは、本店、支店、支社、事業所等の名称を問わず、営業上の主要な活動が行われる一定の場所をいう。
また、法は、探偵業者に対し、営業所ごとに、従業者の名簿の備付けを義務付けていることから、「営業所」は、規模の大小を問わず、所属している従業者に対する日常的な配置運用等の実質的な業務運営が行われている場所が想定されていると解される。よって、営業の目的とする一部の行為が行われる場所であっても、その遂行が他の指示に従ってなされるにすぎない場合は、「営業所」ということができず、例えば、探偵業者の指示に従って、単に電話の取次ぎのみを行うような場所は、「営業所」とはいえない。なお、法は、探偵業について、営業所ごとの届出を求めているので、既に届出をして探偵業を営んでいる者であっても、新たに営業所を設けようとする場合には、当該営業所に関する届出が別途必要であることに留意すること。
(2) 法第4条第1項第1号中「商号」とは、商人の営業上の名称をいう(会社については、会社法第6条参照。)。
(3) 法第4条第1項第1号中「住所」とは、届出者が法人の場合には「主たる事務所の所在地」をいい(民法第50条)、会社については「本店の所在地」をいう(会社法第4条)。
(4) 法第4条第1項第2号中「主たる営業所」は、原則として会社法上の本店と一致するが、届出者が他の営業をも併せ行っている場合等であって、探偵業に係る営業の中心となる営業所が会社法上の支店であるときは、主たる営業所が会社法上の本店と一致しないこともあり得る。
(5) 法第4条第1項第3号の「当該営業所において広告又は宣伝をする場合に使用する名称」とは、営業所において広告又は宣伝をする場合に使用されている名称のうち、商号と異なるものをいい、探偵業者が、同一の営業所について複数の名称により広告又は宣伝している場合には、届け出ることが必要である。
(6) 法第4条第1項の届出書(以下「開始届出書」という。)の提出は、当該営業所の所在地の所轄警察署長を経由して行うこととされている(府令第1条)。開始届出書の提出を受けた警察署においては、記載漏れの有無、添付書類の有無等の形式上の要件について確認すること。
2 第2項関係
(1) 「当該探偵業」とは、当該届出に係る探偵業をいう。したがって、会社は存続し、探偵業を継続するものの、届出をした営業所に係る探偵業を廃止したときは、探偵業廃止届出書(府令別記様式第2号。以下「廃止届出書」という。)を提出することとなる。なお、「探偵業を廃止したとき」には、自ら進んで探偵業を廃止した場合のほか、法第15条第2項の規定による営業廃止命令を受けて廃止した場合が含まれる。
(2) 届出事項のうち営業所の所在地の変更があった場合の届出については、次のとおりとなる。
ア、法が営業所ごとに都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)への届出を求めている趣旨にかんがみ、都道府県の区域を異にして所在地を変更する場合には、変更前の営業所が所在する都道府県の区域を管轄する公安委員会に対しては廃止届出書を提出し、変更後の営業所が所在する都道府県の区域を管轄する公安委員会には開始届出書を提出することとなる。
イ、同一都道府県内において営業所の所在地を変更する場合であって、営業所として実質的に同一性が認められるとき(例:業務の内容と役員は同じで、従業者に若干の変更が生じたにすぎない場合等)には探偵業変更届出書(府令別記様式第3号)を提出し、それ以外のときには、変更前の営業所について廃止届出書を提出し、変更後の営業所について開始届出書を提出することとなる。
(3) 探偵業者が法人の場合、その役員に異動が生じたときは、当該法人が有するすべての営業所について、その所在地を管轄する公安委員会に、変更の届出を行うこととなる。
(4) 府令第3条第2項中「探偵業の廃止又は変更の日から十日以内」とは、当該廃止又は変更の日を算入せず、その翌日から起算して十日以内をいう(民法第140条)。
3 第3項関係
(1) 届出については、形式上の要件に適合した届出が提出先とされている警察署に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとなるため(行政手続法第37条)、その翌日から探偵業を営むことができることとなることを踏まえ、警察署において形式上の要件に適合した届出を受け付けた場合には、速やかに法第4条第3項の書面(以下「届出証明書」という。)を交付すること。
(2) 届出証明書は、届出があったことを証明するものにすぎず、探偵業者が欠格事由に該当していないことを証明するものではない。よって、届出の後、探偵業者が欠格事由に該当することが判明した場合には、法第15条第2項に基づく営業廃止命令の対象となる。また、法第4条第1項各号に掲げる事項に関して変更の届出があった場合には、当該変更事項が届出証明書に記載する事項でなくても、新たな届出証明書を交付することとなる。
第5 名義貸しの禁止(法第5条関係)
法第5条は、届出をしていない者に名義を貸すことのみならず、届出をしている者に名義を貸すことをも禁じた規定である。また、届出をした者が自らは探偵業を営まずに他人に名義を貸した場合に限らず、届出をした者が自己の名義で探偵業を営みつつ、他人に名義を貸した場合にも、本条違反が成立する。
第6 探偵業務の実施の原則(法第6条関係)
1 法第6条前段関係
(1) 「この法律により他の法令において禁止又は制限されている行為を行うことができることとなるものでないことに留意する」とは、探偵業者及び探偵業者の業務に従事する者(以下「探偵業者等」という。)が探偵業務を行うに当たり、この法律によって、特別の権限を与えられるものでなく、探偵業務であることを理由に正当な業務行為として違法性が阻却されるものではないことを注意的に規定したものである。
(2) 「他の法令において禁止されている行為」には、例えば、刑法上の犯罪行為(例:調査の対象者を見張るため、付近住民宅の敷地に許可なく入る行為等)、電気通信事業法違反の行為(例:調査の対象者の電話を盗聴する行為等)等が該当する。
(3) 「他の法令において制限されている行為」には、例えば、住民基本台帳法において制限されている行為(例:住民基本台帳を閲覧する行為等)、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)において制限されている行為(例:個人データを第三者に提供する行為等)等が該当する。
2 法第6条後段関係
(1) 法第6条後段(「人の平穏を害する等個人の権利利益を侵害することがないようにしなければならない。」)に違反した場合には、指示等の処分の対象となる。
(2) 「個人の権利利益を侵害すること」には、刑事上の違法な行為のほか、民法上の不法行為に該当する行為が含まれる。
第7 書面の交付を受ける義務(法第7条関係)
1 法第7条は、依頼者に対してではなく、探偵業者に対して義務を課したものであり、違反した場合には、指示等の処分の対象となる。
2 「犯罪行為」とは、刑法に限られず、刑罰法令に違反する行為をいい、例えば、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律第10条第1項に基づく保護命令に違反する行為等が該当する。「違法な差別的取扱い」とは、例えば、労働基準法において禁止されている労働条件の差別的取扱い等をいう。「違法な行為」とは、刑事又は民事の別を問わず、違法と評価されるすべての行為をいう。
第8 重要事項の説明等(法第8条関係)
1 総説
(1) 法第8条第1項の規定により契約を締結しようとするときに依頼者に対して交付する書面(以下「契約前書面」という。)及び同条第2項の規定により依頼者に対して交付する契約の内容を明らかにする書面(以下「契約後書面」という。)は、それぞれ一の書面であることを要せず、契約書、調査の計画書、パンフレット等複数の書面によることで差し支えない。
(2) 依頼者と探偵業務を行う契約を締結した探偵業者が、他の探偵業者に当該探偵業務を委託する契約を締結する場合には、当該他の探偵業者は、当該探偵業務を行う契約を締結した探偵業者に対して、契約前書面及び契約後書面を交付する必要がある。
2 第1項関係
(1) 第4号関係
「法第10条に規定する事項」については、法第10条第1項に規定する守秘義務を負っていることのほか、同条第2項に規定する資料の不正又は不当な利用を防止するための措置のうち、法第8条第1項第9号の資料の処分に関する事項以外の事項を明らかにする必要がある。
(2) 第5号関係
「提供することができる探偵業務の内容」については、収集できる情報、実施できる調査方法、調査の体制(従事できる人数等)、調査を実施できる地域の範囲、依頼に係る調査に通常見込まれる時間、調査結果の報告の方法等を明らかにする必要がある。
(3) 第6号関係
「探偵業務の委託に関する事項」については、探偵業務を他の探偵業者に委託するか否か、委託する場合には、委託する探偵業者の基礎的事項(法第8条第1項第1号及び第2号)、委託する業務の内容、依頼者の氏名等を通知するか否かなどを明らかにする必要がある。
(4) 第7号関係
「金銭の概算額」とは、探偵業務の対価を含む契約に伴い依頼者が支払わなければならない一切の金銭の概算額をいい、一般的な料金体系等のほか、依頼に係る探偵業務にかかり得る最大限の総額、その算出の基礎となる個別の料金設定等を詳細に明らかにする必要がある。
(5) 第8号関係
「契約の解除に関する事項」には、契約の当事者が契約を解除することができる事由のほか、契約の解除の場合に発生する可能性のある違約金に関する事項が含まれる。
(6) 第9号関係
「探偵業務に関して作成し、又は取得した資料」とは、例えば、調査の過程で作成されたメモ、調査の報告書、調査の過程で記録した写真、ビデオテープ、録音テープ、調査の過程で入手した資料等をいう。「処分に関する事項」とは、処分を行うか否か、行う場合にあっては、処分の時期、その方法等をいう。
3 第2項関係
(1) 第3号関係
「探偵業務に係る調査の内容、期間及び方法」については、調査の対象者、調査の目的とする情報の内容、調査の体制、調査を実施する地域の範囲、期間(いつからいつまでの何日間行うか、1日何時間程度行うかのほか、夜間、深夜、休日等、稼働時間帯により特別料金が設定される場合には、同時間帯における実施に関すること等)、調査方法、調査の過程で追加料金が必要となる業務が生じた場合における当該業務の実施の有無及びその内容等を具体的かつ詳細に記載することが必要である。
(2) 第4号関係
「調査の結果の報告の方法」とは、調査の過程で記録した写真、録音テープ等の取扱い(提示のみか又は提供するか)、調査の報告書の作成の要否(文書、メール又は口頭のいずれにより報告するか)等をいう。「報告の期限」については、具体的な年月日のほか、「所在が判明したときは、直ちに報告する。」等と記載して差し支えない。
(3) 第6号関係
契約に係る探偵業務にかかる具体的な金額を確定しておくことが望ましいが、調査の結果や過程如何によって金額が変動し得ることが契約において留保されている場合(例:いわゆる成功報酬、実費費用請求等)には、当該契約に係る探偵業務にかかり得る最大限の総額、その算出の基礎となる個別の料金設定等を詳細に明らかにする必要がある。
第9 探偵業務の実施に関する規制(法第9条関係)
1 第1項関係
「探偵業者は、当該探偵業務に係る調査の結果が犯罪行為、違法な差別的取扱いその他の違法行為のために用いられることを知ったとき」とは、その従業者の報告等を通じて知った場合も含まれる。また、調査の結果が違法な行為のために用いられることを確定的に認識した場合のほか、そのような可能性があることを認識し、そのように用いられても構わないと容認することも「知ったとき」に該当する。例えば、「家出した配偶者の所在」の調査依頼を受けた場合において、調査の過程で、依頼者が、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律第10条第1項に基づく保護命令を受けている可能性があることが判明したときには、保護命令違反のために用いられるものでないことが明らかにならない限り、探偵業務を行ってはならない。
2 第2項関係
法第9条第2項により禁止されるのは、「探偵業務」の全部又は一部を「探偵業者」以外の者に「委託」することである。すなわち、例えば、探偵業者が聞込みを行う過程で第三者に単に情報提供を依頼すること、調査の過程で取得した写真の現像を第三者に依頼すること等は、「探偵業務」の委託ではないから、法第9条第2項の違反ではない。また、探偵業務を委託すること自体は禁止されていないが、委託先は、「法第4条第1項の届出をして探偵業を営む者」に限られるので、個人の事業者を含め、無届で探偵業を営む者に探偵業務を委託することは、法第9条第2項違反となる。なお、臨時に雇用した者を含め、探偵業者の従業者に探偵業務を行わせることは、「委託」ではないから、法第9条第2項に違反するものではない。
第10 秘密の保持等(法第10条関係)
1 第1項関係
(1) 「探偵業者の業務」には、探偵業務のほか、同業務の遂行に必要な庶務、経理等の諸業務が含まれる。
(2) 「業務に従事する者」には、常用、臨時を問わず、探偵業者と雇用関係のある者のほか、業務に従事する役員、業務の一部を手伝う家族、第三者から派遣された者が庶務、経理等を行う場合における当該派遣社員等が該当する。なお、個人の探偵業者も、「業務に従事する者」に含まれる。
(3) 「正当な理由」がある場合には、例えば、法令上通報・報告する義務を負う場合、訴訟手続上の証人として証言しなければならない場合、依頼者本人が承諾した場合等が該当する。
(4) 個人情報保護法第18条第1項においては、個人情報取扱事業者が、個人情報を取得した場合には、その利用目的を本人に通知し、又は公表することとされている。同項の適用が除外されるのは、あくまでも同条第4項各号に掲げる事由に該当する場合であり、法第10条第1項によって、探偵業者一般に個人情報保護法第18条第1項の適用が除外されるものではないことに留意する必要がある。
2 第2項関係
「不正又は不当な利用を防止するため必要な措置」については、例えば、資料(電磁的記録を含む。以下同じ。)の保管方法、資料を取り扱うことのできる者の範囲、資料の持ち出しの手続、資料を複写する場合の手続、廃棄方法、情報セキュリティの確保等の点において適正に管理されている必要がある。また、その実効性を担保するため、必要な規程の整備や物的措置(例:鍵のかかる保管庫、セキュリティ措置が講じられているパソコン等)が講じられている必要
がある。
第11 教育(法第11条関係)
「使用人その他の従業者」とは、探偵業者の下で業務に従事する者をいい、雇用関係を有するか否かを問わない。「必要な教育」には、法や個人情報保護法を始めとする関係法令の知識、適正な探偵業務の実施方法、業務に関する資料及び情報の適正な取扱い方法等についての教育
が含まれる。探偵業者が、法第11条の規定に違反して「必要な教育」を行わず、従業者が不適正な探偵業務を行った場合には、指示等の処分の対象となる。
なお、法第11条の義務の履行を担保するため、教育計画書及び教育実施記録簿を作成するよう指導すること。
第12 名簿の備付け等(法第12条関係)
府令第5条第1項第3号の「従事させる探偵業務の内容」には、各従業者の行う業務の具体的内容について記載する必要がある。
第13 報告及び立入検査(法第13条関係)
1 報告の徴収及び立入検査の実施に当たっては、法の目的と関係のない事項に及ぶ等無用の負担をかけることがないように配意すること。
2 営業所の所在地を管轄する公安委員会に届出書を提出すれば、探偵業者は、他の都道府県の区域においても探偵業務を行うことができることから、法の施行に必要な限度においては、営業所の所在地を管轄する公安委員会以外の公安委員会であっても、報告又は資料の提出を求めることができる。同様に、立入りについても、営業所の所在地を管轄する都道府県警察以外の都道府県警察の職員であっても行うことができる。この場合、関係都道府県警察間において緊密な連絡を行うこと。
3 法第13条第2項に規定する身分を示す証明書の様式は、別記様式第1号のとおりとする。
第14 指示(法第14条関係)
1 指示の主体
指示は、探偵業者等が法令違反をした場合において、探偵業の業務の適正な運営が害されるおそれがあると認められるときに行うことができるものである。探偵業に関する指導監督は、届出に係る営業所の所在地を管轄する公安委員会が一元的に行うのが効果的かつ効率的であるため、指示は、違反行為を行った探偵業者等に係る営業所の所在地を管轄する公安委員会が行うものとする。違反行為を行った探偵業者等に係る営業所の所在地を管轄する公安委員会以外の公安委員会が違反行為を把握した場合には、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に対し、違反事実を通報すること。
2 指示の手続
法第14条の規定による指示は、別記様式第2号の指示書により行うものとする。
3 その他
指示は、不利益処分に該当するため、これを行う場合には、行政手続法第13条第1項第2号の規定に基づき、弁明の機会を付与しなければならないが、その手続については、聴聞及び弁明の付与に関する規則において定めるところによること。
第15 営業の停止等(法第15条関係)
1 営業停止命令
(1) 営業停止命令の主体
営業停止命令は、探偵業者等が法令違反行為をした場合において探偵業の業務の適正な運営が著しく害されるおそれがあると認められるとき、又は法第14条の規定による指示に違反したときに行うことができるものである。指示と同様の理由から、違反行為を行った探偵業者等に係る営業所の所在地を管轄する公安委員会が行うものとする。
違反行為を行った探偵業者等に係る営業所の所在地を管轄する公安委員会以外の公安委員会が違反行為を把握した場合には、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に対し、違反事実を通報すること。
(2) 営業停止命令の手続
法第15条第1項の規定による営業停止命令は、別記様式第3号の営業停止命令書により行うものとする。
(3) その他
営業停止命令は、不利益処分に該当するため、これを行う場合には、行政手続法第13条第1項第2号の規定に基づき、弁明の機会を付与しなければならないが、その手続については、聴聞及び弁明の付与に関する規則において定めるところによること。
2 営業廃止命令
(1) 営業廃止命令の主体等
営業廃止命令は、法第3条各号(欠格事由)のいずれかに該当する者が探偵業を営んでいるときに行うことができるものである。欠格事由該当者については、速やかにこれを排除する必要があるため、欠格事由のいずれかに該当する者が探偵業を営んでいることを把握した公安委員会は、管轄区域内にその者の営業所が所在しているか否かを問わず、営業廃止命令を行うものとする。欠格事由に該当する者の営業所の所在地を管轄する公安委員会以外の公安委員会が営業廃止命令を行った場合には、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に処分の結果を連絡すること。なお、営業廃止命令の対象は、探偵業の届出をしている者か届出をしていない者かを問わない。
(2) 営業廃止命令の効力
営業廃止命令を受けた者が公安委員会に届出をしていた者である場合には、同命令の効力は、その者が営むすべての営業所における探偵業に及ぶ。したがって、営業廃止命令を受けた者は、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する公安委員会に対して、廃止の届出を行わなければならない。
(3) 営業廃止命令の手続
法第15条第2項の規定による営業廃止命令は、別記様式第4号の営業廃止命令書により行うものとする。
(4) その他
営業廃止命令は、不利益処分に該当するため、これを行う場合には、行政手続法第13条第1項第2号の規定に基づき、弁明の機会を付与しなければならないが、その手続については、聴聞及び弁明の付与に関する規則において定めるところによること。
第16 方面公安委員会への権限の委任(法第16条関係)
令により、神奈川県公安委員会の権限に属する事務のすべては、神奈川県警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、当該方面公安委員会が行うこととされている。したがって、法に規定する届出は、当該届出に係る営業所が方面公安委員会の管轄区域内にある場合には、当該方面公安委員会に対して行うこととなる。
第17 経過措置(附則第2条関係)
法の施行の際現に探偵業を営んでいる者は、施行の日(平成19年6月1日)から一月間は、法第4条第1項の届出をしないで探偵業を営むことができることとされていることに留意すること